ーストレスの心理学③ー
今回は、具体的にストレスにどう対処していけばよいか、についてご紹介します。前回の記事はこちらになります。
目次
4ステップの成長思考
前回紹介した通り、ストレスには複数の作用が存在します。そして、どの作用が発現するのかは思い込みによって決まってきます。
ストレスを感じた時には、まず以下のステップで考えることが重要です。
①自分がストレスを感じている対象は何か?
②その対象は避けられないものか?なぜそのストレスは必要なのか?
③それを乗り越える、またはそれから逃げることで、自分に起こるメリット・デメリットは何か?
④乗り越えるために、自分のどういった強みを活かせばよいか?*1
一つひとつ詳しく見ていきます。
たとえば、パソコンのスキルが足りないために、人より仕事の進みが遅いことをストレスに感じている人がいるとします。
この場合、①自分がストレスを感じている対象はパソコンのスキルが足りないことですね。
また、パソコンを使って仕事をすることは避けられないので、②対象は避けられないものか?に該当します。
同じく②なぜそのストレスは必要なのか?について。
ストレスを感じているということは、何か積極的にやりたいことがあるはずです。それを理解し、目的を明確にするためのステップです。
詳しくは、以下の記事で解説しています。
逃げることで生まれる”悪循環”を知る
③乗り越える、またはそれから逃げることで、自分に起こるメリット・デメリットは何か?について。
これは、ストレスを受け入れたほうが良い、ということを理解するためのステップです。
例でいうと、この人が休日をスキルの勉強に使ったり、同僚に相談したりしたとします。
そうしてパソコンのスキルを身につけられたなら、仕事の進みは格段に速くなります。浮いた時間で新しい仕事に取り組めば、上司からの評価も上がるかもしれません。あるいは休養にあててもいいでしょう。
ストレスを乗り越えたことで、可能性が広がりました。
逆に、「パソコンの使い方は自分にはよく分からないし、きっと自分には向いてないんだ」と思い、スキルを磨くことを怠ったとします。すると、この先ずっと仕事が遅いストレスに悩まされることになるのは明らかです。
これをストレス生成の悪循環といいます。*2
ストレスが避けられないものである以上、悩みをなくすには立ち向かうしかありません。
極端に良く/悪く考えない
③自分に起こるメリット・デメリットは何か?については、客観的に分析することが必要です。
スタンフォード大の心理学者マクゴニガルは、車の渋滞を例に挙げて説明しています。*3
渋滞を乗り越えることで得られる能力やメリットなんて、何もありませんよね?
こういう風に、ただ時間の浪費になったり、デメリットしかもたらさないものに関してはなるべく避けて、別のことに時間を使うべき、というケースもあります。
逆に、乗り越えることで大きなメリットがあるのに、悪い面しか見えていない、ということもあります。あるいは、周りの意見に流されて本当に必要なことに取り組まないということもあります。
前者のケースとしては、内向的でかつコミュニケーションを苦手と感じている人が挙げられます。
こういった人たちは、自分が他人にどう思われるか気になりすぎて不安を感じてしまう傾向にあります。さらには、他人と自分を比較して、自分だけが劣っているんだという負のスパイラルにも陥りやすいです。
この類のストレスを力に変えるには、自分を客観的に見ることが有効です。これはメタ認知と呼ばれる考え方です。
参考:
さらには、実は内向的な性格の人は、人の感情を細かく分析できる感情知性が高く、相手の感情を読み取る力に長けているということが分かっています。相手の感情を気にしすぎてしまうため、疲れてしまうわけですね。
これはそのまま、ストレスを解決するための自分の強みと考えることもできます。
後者のケース(周りの人に流される)は分かりやすいと思います。
勉強や仕事をしなきゃいけないと理解してはいるのに、友達と遊んでばかりいたり、スマホをつい見てしまったりなどといった状況ですね。
これはストレスの客観的な分析ができておらず、間接的にストレスから逃げている状態といえます。
実は、人間はひとりでいる時の方が、創造性が高まりアイデアを生み出しやすいことが分かっています。
参考:
少しでも「達成したい目標」があると感じていて、周囲の環境のせいで達成しづらいと考えているなら、ひとりの時間を作るように努めることも大事になります。
自分の強みを認識する
④乗り越えるために、自分のどういった強みを活かせばよいか?
については、簡単には考えづらいかもしれません。理由は単純で、人によって大きく違うからです。
しかし、多くの場合「ストレスを感じている原因」を細かく分析すると上手くいくことが多いです。
例でも、一口に「パソコンが苦手」といっても、「単に使い始めたばかりで慣れてないから」「同僚の仕事を邪魔するのが申し訳なくて聞きづらいから」「知識がなく、どう勉強していいかすらも分からないから」
などいろいろ考えられます。
原因によって、自分のどういった強みを生かせばいのかも変わってきます。
「強みを探せって、それがないから困ってるんだろ」と思われるかもしれません。
しかしそれは、自分の強みを正しく認識できていないだけです。
たとえば、上で述べたように「内向的で引っ込み思案な人は、人の感情を読み取りやすく、実はコミュニケーションスキルが高い」などがあります。
その他いくつかの例について、DaiGoさんがYouTubeで紹介されています。
マインドセット→テクニックの順番で変えていく
マインドセットとは?
ここまで、ストレスを力に変えるための具体的な方法を紹介してきました。
このシリーズを読んでくださっている方の中には、ストレスについての考え方が180度変わったという方もいらっしゃるかと思います。
心理学では、こういった考えや価値観の切り替えを「マインドセット・リセット」といい、人それぞれが持つ、現実や人生観を作る考え方のことをマインドセットといいます。
ストレスをメリットとして考えるためには、まずストレスに関してのマインドセット・リセットが必要になります。
努力しないで努力し続けられる人になる
マクゴニガルは、マインドセットを変える実験や出来事(マインドセット介入)を「『触媒』のようなもの」と言っています。*4
「触媒」という言葉が示すように、マインドセットは、ねずみ算的に変わっていく行動の、いわば根っこにあたる部分です。
そういった意味で、マインドセットは、価値観、と置き換えてもよいかもしれません。
価値観は、無意識に私たちの行動に大きな影響を与えています。たとえば、
・喜びと苦しみは交互にやってくる。
・よいことをしたら必ず自分に返ってくる。
というのはマインドセットですし、
・スポーツは才能だが、勉強は努力だ。
・一日三食、すくなくとも二食とることがふつうだ。
・イケメンや美女は人生の勝ち組だ。
というのもマインドセットです。
そして、マインドセットは個人の育った環境や社会的状況、経験によって大きく変わることがあります。*5
あるいは、ストレスの科学のように、新たな科学的知見によっても変わりえます。
極端な話、一日一食が健康に良いと分かって、それが社会にある程度広まったなら、「一日三食はおかしい」という世の中になるかもしれません。
(実際に、アスリートでは効率よく栄養を取るため、一日五食以上とるというケースもあります。)
本当かどうかわかりませんが、平安時代のイケメンと現代のイケメンはまるで違った顔をしている、という話もありますね、、、
ようは、事実さえ合っていれば、マインドセットはいくらでも変わる可能性があるわけです。
そして、ストレスは悪者ではないというのは事実です。
つまり、「ストレスは味方だ」という風にマインドセットを変えられたら、ストレスに必要以上に悩まされることもなく、むしろメリットに変えられるのです。
やがて、そのマインドセットは自分にとって当たり前のことになります。周りから見たら、とんでもなくポジティブで、活気のある人に見えることでしょう。
「努力しないで努力し続けられる人」の誕生です。
まとめ
この記事では、ストレスを感じたときに考えるべき4つのステップと、人間の価値観、つまりマインドセットは変えることができるということを紹介しました。
では、マインドセットを変えるためにはどうすればよいのでしょうか。次回はマインドセットについて、研究事例をふまえながら、もう少し詳しく見ていこうと思います。
*「ストレスの心理学」は、ケリー・マクゴニガル『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(『The Upside of Stress)』を参考に作成しました。書籍では、ストレスを力に変える思考法・練習法や、数多くの研究事例・エピソードが載せられています。興味のある方は、ぜひお買い求めください。
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